【Knowledgeshare】なぜメディアを「クロス」させた方が良いのか?

2016.05.31 広報室_管理者

前回、「Facebook広告による態度変容効果を検証」でご紹介したようにFacebook広告には態度変容効果があることがわかった。今回は、それを他のメディアと比較した結果をご紹介する。調査手法には、カンター・グループMillwardBrown社のCrossMedia Researchを用いた。分析は、 Facebookと共同で調査を実施した日本の大型ブランドキャンペーンについて、測定された複数の効果データを統合する形で行った。態度変容効果という同じ土俵で、メディア間の効果の違いやシナジー効果についての発見をご紹介する。
※全文PDFのダウンロードはこちら

  • 大規模キャンペーンにおいて、認知にはテレビが有効であるが、 その先の態度変容を目的とするならば、デジタル予算を増やす余地がある。
  • 意向や行動といったより深い態度変容には、デジタル・メディア活用と、メディア重複接触によるシナジー効果に着目するプランニングが有効。
  • モバイルは購買導線上でも訴求できるため、モバイルと親和性の強い Facebookは、行動喚起において圧倒的に効率的である。
  • テレビのプライムタイムとFacebookのマイクロオケージョンを 創造的にプランニングしてシナジー効果を最大化されたい。

大型キャンペーンでの平均的なデジタル予算比はまだ1割

今回の分析の対象となったキャンペーンは、成熟ブランドから新製品ブランド、消費財から耐久財、全性年齢をターゲットにするものから特定の性年齢をターゲットにするものなど、異なる条件・状況下で実施された。いずれも共通しているのは数億円のメディア予算で実施された大規模なブランドキャンペーンであったということだ。これらのキャンペーンのメディア予算を平均化すると、デジタルの予算比率は全体の1割ほどとなった。これはあくまで一部の大型キャンペーンを取り出した結果である。ちなみに、電通発表の「2015年日本の広告費」によるとデジタル広告費は、総広告に対して既に19%、メディア費だけでも15%となっており、成長が続いている。デジタル広告は予算が少なくても実施することができるので、今回の分析対象となったような大型キャンペーンに絞った場合には、デジタル予算比はまだ1割ほどしかないというのが実情なのかもしれない。

なお、デジタルで先行している米国を見ると、既に32%がデジタル広告費となっており、2017年にはデジタル広告費がテレビの予算を超えると言われている。 (出典:eMarketer June 2014)

メディア予算の偏りがもたらす弊害

メディア予算が偏ってしまうことの弊害として、キャンペーンの投下量が一部の消費者層に集中し過ぎてしまうという点が挙げられる。以下は評価されたキャンペーンの中でもテレビの予算比が高かった典型的な例であるが、ターゲット人口の中で29%しかいないテレビのヘビー層に対して、キャンペーン全体GRPの64%が消費されていた。逆に、テレビをあまり見ないライト層や非利用層は42%存在するのに対して、キャンペーン全体GRPの10%しか広告が到達していなかった。

つまり、テレビへの過剰投資は一部の過剰接触者を作り出すだけで、テレビをあまり見ない層への接触頻度はなかなか高まらないということだ。そのため、大型キャンペーンでは、テレビだけではなく、複数のメディアに予算を分散させた方が、ターゲットに広く適度な接触頻度でキャンペーンを浸透させることが出来る。

本調査でのGRPについて

CrossMedia Researchでは、各メディアでの広告投 下がキャンペーンのターゲットに対してどれだけリーチし、どれ だけの頻度(フリクエンシー)で接触したか明らかにすること が出来る。このリーチ%とフリクエンシーを掛け合わせること で、メディアを横断して各メディアの投下量をGRPとして把 握することができる。例えば、30歳から49歳の女性をター ゲットにしたキャンペーンにおいて、Facebook広告がこの 層の30%にリーチしており、平均フリクエンシーが3回だっ た場合、このFacebook広告のGRPは90と計算される。

テレビを所有していない層も含めた個人レベルでのGRP算 出となるため、一般的なテレビ視聴データに比べて、 CrossMedia Researchで計算されるGRPは低い値に なることが多い。

 

主要デジタル・メディアの組み合わせが、デジタルリーチを最大化させる。

テレビでは届かない層へのリーチ補完として、デジタル・メディアをどのように活用すると良いのか。以下は、今回分析対象となったキャンペーンの平均的なクロスリーチ状況である。大型キャンペーンが分析対象になっているということもあり、Facebookによってテレビに追加できるリーチは平均2.7%となり、ほとんどのFacebookのリーチはテレビのリーチと重複していた。これはFacebookに限らず、主要なデジタル・メディアである大手ポータルサイトや動画共有サイトについても、それぞれテレビに追加できるリーチは3.3%、2.2%と非常に限定的であった。ただ、上記で述べたように、テレビはリーチしたとしてもフリクエンシーが薄いライト層や非利用層がいるので、デジタル・メディアによってその接触頻度を補う意義は大きい。また後述するシナジー効果も考えるとテレビとの重複は重要だ。

次に主要なデジタル・メディア同士のクロスリーチを見ると、それぞれが独自のリーチを持っていることがわかる。特にモバイルからのアクセスが中心であるFacebookは、その他のデジタル・メディアとは異なる層によくリーチできていた。したがって、デジタル・メディアにおいても一つのメディアに偏らずに分散させることで効率的にデジタル・メディアのリーチを最大化することが出来ると考えられる。

深い態度変容はメディアを重ねないと上がりづらい

各メディアの効果に入る前に、まずはクロスメディアキャンペーンを実施することでどのような態度変容効果が期待できるかを見てみる。CrossMedia Researchの特徴の一つとして、キャンペーンによる態度変化を、メディア投資に直接起因する広告効果と、それ以外の間接的な影響(広告以外の影響である広報活動や口コミ、店頭活動、直近キャンペーンの忘却など)を切り離して分析できる点が挙げられる。

以下左のチャートは、今回分析対象となったキャンペーンのブランド指標を、認知、意向、行動、イメージという4つのグループに分類して、平均的なキャンペーン効果を分析した結果である。認知関連の指標は広告効果によって上昇しやすいものの、意向、行動とファネルを深く進むにしたがって、広告効果で上昇させられる値は小さくなっていく。この結果は各キャンペーンごとに見ると大きく異なる。新規ブランドの場合、過去の蓄積がないため1度のキャンペーンで得られる広告効果は大きい。一方、成熟したブランドであれば、過去の活動の蓄積でブランド態度が築かれているので、1度のキャンペーンによって意向や行動といった深い態度変容を新たに作り出せるのはターゲット人口の数%しかいないということが多い。また、直近のキャンペーンの影響が強く残っていて広告効果が限定的になることや、広報活動や店頭活動に力を入れると広告以外の影響が強くなることもある。

グループ指標について

各キャンペーンは、異なる商品カテゴリで異なるブランド指標を用いて測定さ れていたため、それぞれの効果指標を以下の4グループに分類して、各指標の 平均値を計算した。平均化された各指標は、ターゲット人口の中で新たに態 度変容を起こした層が何%いるかの期待値を表している。

  • 認知: 認知を代表する指標。ブランド助成認知、純粋想起、広告想起や キャンペーン認知などが含まれている。
  • 意向: ブランドに対してポジティブな態度を表す指標。購入意向、利用意向、来店意向、好意度、推奨意向などが含まれている。
  • 行動: 実際に購入をはじめとする行動が生まれたかを表す指標。購入経験、過去3ヶ月購入経験、店舗来訪経験、アプリダウンロード経験などが含まれている。
  • イメージ: キャンペーンを通じてブランドに付加しようとしたイメージを表す指標。各 キャンペーンで意図していたブランドイメージが含まれている。イメージは 長期的に記憶に残るため、上記図ではブランドファネルとは区別している。

さらに、CrossMedia Researchでは、広告効果のうちメディア単独接触による効果と、複数のメディアに接触することで初めて生まれるメディアシナジー効果を明らかにすることが出来る。上記右の図は、各指標における広告効果の、単独効果とシナジー効果の内訳を表している。例えば、認知の広告効果7.3%の内、21%はメディアシナジー効果によって生まれていると解釈する。これを見ると、認知のような上がりやすい指標は単独メディアの接触でも上昇するものの、意向や行動といった深い態度変容を生み出すためには複数メディアへの接触が必要だということがわかる。

そのため、認知が飽和しており、その先の態度変容が課題となっているような成熟ブランドのクロスメディアキャンペーンでは、テレビのリーチを補完するという視点だけではなく、いかに他のオフラインメディアやデジタル・メディアによる重複メディア接触を作り出し、メディアのシナジー効果を引き出していくかという視点も重要となってくる。

テレビは認知に、
デジタルはより深い態度変容である意向や行動に効く

それでは、メディア別の広告効果はどのようになっているのだろうか。以下の図は、各指標での広告効果のうち、テレビ、テレビ以外のオフラインメディア、Facebook、Facebook以外のデジタル・メディアに効果を分類したものである。例えば、認知での広告効果7.3%のうち、72%はテレビによる効果と解釈する。

このように見ると、認知ではテレビが強いものの、意向、行動とより深い態度変容を見ていくと、デジタル・メディアの貢献が増していくことがわかる。従来調査では、各メディアで広告を認知した人をベースに、ブランドへの態度の違いを分析することがあるが、デジタル・メディアはそもそもの投資が少ないこともあり、分析に必要な広告認知者が集まらず分析されないことが多い。しかし、実はその先の態度変容でこそデジタルの真価が見られるのである。

FB8.gif

デジタル・メディアはテレビに比べて平均5倍効率が良い。
特にFacebookは行動喚起において圧倒的に投資対効果が高い。

さらに各メディアの効果シェアをメディア予算のシェアで割って、投資対効果を比較すると以下のようになる。例えば、テレビの認知における投資効率スコア96%は、認知におけるテレビの効果シェア72%を、テレビの予算シェア75%で割ったものである。予算のシェアよりも効果のシェアが大きければ100%よりも大きな数字となり、数字が高いほど効率的ということになる。このように見ると、デジタル・メディアが認知も含め全体的にオフラインメディアよりも効率的であり、予算を増やす余地が大きいことがわかる。また、Facebookはデジタル広告の中でも、特に行動喚起で非常に効率的であるということも見えてくる。

FB9.gif

手持ち無沙汰なマイクロオケージョンがモバイル&ソーシャルの魅力

なぜこんなにFacebookは行動喚起で効率的なのだろうか。以下はFacebookとKantar JapanがFacebookユーザーに関する調査を行った際の、平日におけるテレビとFacebookの時間帯別利用状況である。

これを見ると、移動や外出が多い日中の時間帯で、テレビの視聴者よりもFacebookの利用者の方が多い傾向がみられる。Facebookの利用デバイスは9割以上がモバイルであるため、平日の移動中であってもいつでもFacebookを利用することができる。そのため、購買行動の近くで広告をリーチさせることで行動を促しやすいのである。

例えば、シャンプーが切れたのでそろそろ買わなければと考えていたOLが、ランチ帰りや、帰宅中の電車の中、はたまたドラッグストアにいる最中に、Facebook広告に接触して、購入を後押しされるというシーンをイメージしていただくとよいだろう。また、従来のデジタル・メディアは、検索やニュース、動画コンテンツなどユーザーが他に目的を持っている状態で広告を届けるため、広告に目が向かいづらかったり、邪魔だと思われる問題があったが、Facebookユーザーの心理的な利用オケージョンとしては、手持ち無沙汰な時やリラックスしている時に利用されることが多く、より広告にエンゲージしやすい心理状況で広告を届けられる。

FB10.gif
FB11.gif

海外でも購買行動とFacebook広告の関係は取り上げられている。ESOMARという市場調査の国際的なカンファレンスでカンター・グループのMillward Brown DigitalとFireflyが2014年に発表した「The Impact of Mobile and Facebook while shopping」では、モバイル端末上での行動を分析した結果、Facebookは他のアプリやサービスに比べて、お店の中で4倍の頻度で使われているということが判明した。

テレビとのメディアシナジーが働きやすい記憶に残るタイミング

Facebookユーザーの82%は、平日1日の中でテレビとFacebookのどちらも利用するため、シナジーが働きやすい状況がある。特に上記の時間帯別分析結果を見ると、テレビのプライムタイムである夕食時を経た夜遅い時間帯ではFacebookとテレビの併用が増え、1日の最後である就寝時にはFacebookの単体利用が増える。つまり、夕食時にテレビで一度広告に接触した後、リラックスしている時間帯に再度Facebook広告でリマインドをかけるといったプランニングを行うことで、より強固に広告の印象を記憶にとどめることが出来る可能性があるのだ。

さらに起床時の単独利用も多いため、次の日の朝、1日のはじまりに1番初めの広告接触を獲得できる可能性もある。

テレビとFacebook広告の効果をCrossMedia Researchの結果からクローズアップしてみると、テレビとFacebookの予算比は97対3と圧倒的に異なるのに対して、行動においてはFacebookが圧倒的に強くなる。また、各指標におけるシナジー効果の存在も見逃せない。シナジー効果はテレビのみの接触でも、Facebookのみの接触でも生まれない効果であるため、両メディアを駆使することが重要と解釈できる。

FB12.gif

永遠の課題であるメディア予算の最適化に近づくために

日本の大規模なキャンペーンにおいて、デジタルの予算比は世界的にも、国内的にも低い傾向が見られる。さらに、その投資対効果を見てみるとデジタル・メディアはオフラインメディアに比べて、圧倒的に効率的であり、今後、デジタル・メディアの消費時間がさらに増えていくことも考えると、デジタル予算を増やす余地が十分にあることがわかる。ただ、その際に注意しなければならないのは、すべてのテレビやオフラインメディアを止めてしまい、デジタルだけに投資するといった極論にならないことである。メディアは、一般的に予算を増やすほど効果の収穫逓減が発生するため、予算が増えるほど効率が悪くなる。また、シナジー効果を考慮すると、広いリーチを持つテレビは、キャンペーンの文脈と温もりを与え、他のメディアで展開する広告をより気づかれやすくしてるという役割を忘れてはならない。実際、Millward BrownがグローバルでCrossMedia Researchの効果データベースを分析した結果、テレビを使用しないキャンペーンは、テレビを使用するキャンペーンに比べて、その他のメディアの効果が半減するということがわかっている。

日本ではスマホの普及にまだ伸びしろがあるため、Facebookに代表されるモバイルやソーシャルの可能性は今後も拡大していくだろう。この機会を組織として享受していくには、積極的に新しいメディアを取り入れて、その効果をCrossMedia Researchのような調査を通じて検証し、組織としてデジタルをブランディングに活用していく知見を蓄積し、自信をつけていくことが欠かせない。このような活動が、限られたマーケティング予算の中で競合に長期的に差をつける一つのアプローチであり、世界的トップブランドのベストプラクティスとなっている。

※調査手法CrossMedia Researchの概要についてはこちら

この記事をシェアする